ベタ基礎だから強い?
いいえ、残念ながら世に出回っている多くのベタ基礎は強くありません。強くないどころか構造的に成立していない「ベタ基礎モドキ」の割合が驚くほど高いのが実情です。このようになってしまっている理由は、建築実務者の理解が不足したまま、工期やコスト重視で「ベタ基礎モドキ」が普及してしまったからです。
まず、20~30年前までの住宅の基礎は「布基礎」が一般的でした。「布基礎」とは下図のようなものです。
逆T字型をした断面の基礎で上部構造からの荷重を支えます。建物外周部と内部の力がかかる場所・耐力壁のある場所等に設けます。
ついでに言うと、「構造的に安定」している状態というのは、上からの力(赤矢印)と下からの力(青矢印)がつり合っている状態となります。地盤に必要十分な強度がある場合には、現在でもこの布基礎で全く問題ありません。
この「布基礎」が一般的だった後、床下空間を防湿するための工法として「布基礎+防湿コンクリート」というスタイルが普及しました。(下図)
この基礎の場合、大雑把な施工手順として
1.基礎を作る部分(外周および中通り)の地面を掘削
2.鉄筋組立および型枠の設置
3.基礎コンクリート打設
4.型枠の解体および土の埋戻し
5.防湿コンクリートの打設
という工程となります。そしてこの「布基礎+防湿コンクリート」が「ベタ基礎モドキ」の登場を促してしまいます。
次に示すのは「ベタ基礎」です。
ベタ基礎の場合、鉄筋コンクリートの「底盤」が下からの力(青矢印)を底盤面全体で受け、その力を「立上り(基礎梁)」に伝え、上からの力(赤矢印)とつりあうという仕組みとなります。そしてこのベタ基礎の施工手順は
1.地面に根入れする建物外周部のみ掘削(※実際には不適切なことが多い)
2.鉄筋の組み立ておよび型枠の設置
3.基礎(底盤込)コンクリート打設
4.型枠の解体および土の埋戻し
となります。上の「布基礎+防湿コンクリート」と比べてどうでしょうか。掘削は外周部だけで簡単で少なく、必要な型枠の量も少なく、鉄筋やコンクリートの量はほとんど同じ。「ベタ基礎」というだけで強そうな印象を得られる上に、工期もコストも有利。こうなるとベタ基礎を選ばない理由はないといえます。
しかしここで理解不足による問題が発生します。
布基礎はそれぞれの基礎部分単体で下からの力(青矢印)を受け、上からの力(赤矢印)とつり合いますので、力を受ける部分のみ、飛び飛びで配置されていても成立するのと比べ、ベタ基礎の場合、底盤は、その厚みや配筋でもつ大きさごと基礎梁によって有効に囲まれていなければ、構造的に成立しません。
下図は底盤が基礎梁によって有効に囲まれている状態です。(赤矢印の箇所には柱が立っていると思ってください)
ところが、一応ベタ基礎(のつもり)なのだけれど、「布基礎+防湿コンクリート」の延長の感覚しかないまま作られているベタ基礎モドキの場合
こうなってしまっているケースが非常に多いのです。問題が分かりますか?
ベタ基礎を理解するのに分かりやすいイメージは、上下を逆さにして考えることです。 ここに床を支える梁と、その梁の力を受ける柱をイメージしましょう。床には均等に荷重がかかっています。梁は、少したわみながら(演出)も床を支えている状態です。
では、梁を切断してみましょう。
当然、こうなりますよね…。
実際には、床下全体を点検可能にするため、人通口(基礎立上りの切断)が必要であったりしますので、立上りを全く切断しないというのは不可能です。その場合、切断された部分に地中梁を設けるなどの措置が必要です。
地中梁の施工には手間や時間もかかり「コストアップになるので避けたい」という要望もよく聞きます。しかし、構造的に成立しないものを作ってコストダウンを図るというのは、おかしな話です。
【結論】
「ベタ基礎だから強い」「ベタ基礎だから安心」は、全く意味のないセールス文句です。「それ本当にベタ基礎ですか?」というところから確認する必要がある問題です。